出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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    「ブックストリート:書店」第02回 2002/02/中旬号

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 鈴木書店が消えてそろそろ二ヶ月ということで、ぼちぼち中間総括をするべき時期か
もしれませんが、いまいち気が進みません。これは鈴木書店の倒産が、現在の出版業界
にあっては特別なことではなくて、時間的にわずかばかり後か先かだけの違いでしかな
いような気がしてならないからです。出版業界に潜在するといわれている不良債権は、
数千億円と言われていますが、売上が六年連続で落ちている状況では、解消のめどが立
ちそうにありません。それに、出版業界が先送りに成功し続けたとしても、日本経済そ
のものの破たんが、そう遠くない時期に、かなりの確率でありそうです。いま、われわ
れが売っている週刊誌や新書などには、デフレスパイラル、国債暴落、金利暴騰、ハイ
パーインフレ、預貯金封鎖、新円切替というような話題で溢れています。このような経
済状況では、出版業界や日本経済の崩壊に際して、各自が被害を最小限にくい止められ
るように防ぐ準備をしておく必要があります。その結果、みんなが新たな借金をせず、
極力無駄を省いて、じっと我慢ばかりしていると、ますます全体経済の足を引っ張って
しまうことになるのですが、だからといって破れかぶれで散財するわけにもいかないで
しょう。
 とはいえ、まだ業界は崩壊していないし、ひょっとしたらまだあと何年もこんな状況
が続くかもしれませんから、いわゆる「専門書」の流通について考えることは無駄では
ないでしょうが、議論はすでに出尽くしているようです。雑誌の流通に乗っかるのを止
めることも、パターン配本を止めることも、正味を下げて買切にすることも、企画を厳
選することも、それこそ業界が一旦崩壊してからでないと、どれ一つとして実現できそ
うにありません。そんな中でただ一つ改善されつつあるのが、あきらかに過剰だった売
場面積が、転廃業書店の増加によって、減少し始めたことだけだというのはまことに皮
肉です。
 しかし、嵐の前の静かさというのか、最後に一花咲かせてくれようというのかは知り
ませんが、うちの店の昨年の売上は意外と順調でした。一九九六年をピークにして、数
パーセントづつ落ちていた売り上げが、二〇〇〇年から上昇に転じ、昨年はほぼ一九九
六年並のところまで回復しましたが、これは間違いなくインターネットのおかげです。
これが「IT革命」なのかどうかは知りませんが、あきらかに情報の流通が改善されま
した。その特色を一言でいうならば、情報の中抜きと言えるでしょう。ネットによって、
大は小学館などの書店用の受注サイトから、小は書店人と出版人の個人的なメール交換
にいたるまで、取次抜きの情報交換が急速に発展しつつあります。また、書店と書店の
情報交換も、地域や規模を越えて簡単にできるようになりました。その結果、従来だと
想像もできなかった有用な情報が、タイムラグなしに大量に入手できるようになりつつ
あります。
    01 岩波書店
    02 筑摩書房
    03 講談社
    04 ペヨトル工房
    05 新潮社
    06 平凡社
    07 小沢書店
    08 中央公論新社
    09 河出書房新社
    10 小学館
これは「三月書房販売速報(仮題)」というメルマガに載せた、二〇〇一年の出版社別
売上冊数の上位一〇社ですが、大出版社に混じって、すでに解散したり倒産したりして、
通常の流通ルートからはずれてしまった、ペヨトル工房と小沢書店が堂々のランク入り
を果たしています。一般書店では買いにくい本を揃えることで特色を出そうとしている
うちの店にとっても、これは本当に画期的な出来事でしたが、この二社の本を扱うこと
になったきっかけや、売上が増加しした原因のほぼすべてが、インターネットのおかげ
でした。この件につきましては次号以降で詳しく説明することとして、さしあたっては、
拙文を併載していただいた、今野裕一著「ペヨトル興亡史」(冬弓舎)をぜひお読みく
ださい。     [2002/01/20記  (c)SISIDO,Tatuo])
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