出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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   「ブックストリート:書店」第22回 2003/10/中旬号

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 来年4月の消費税総額表示の強制まであと半年を切りましたが、やはりいろいろとうっ
とうしいことになりそうです。スリップに総額表示すればよいということを当局が認め
たそうで、スリップの坊主部分に総額を印刷してあるのをちらほら見かけるようになっ
てきましたが、字が小さすぎて読めたものではありません。しかし、本来は売上管理や
補充注文に利用する目的で挿入されているスリップですから、あくまでも当局向けの形
式的なものに過ぎないことは明らかです。それでも、朝日新聞社の9月新刊には、坊主
部分の面積が数倍広くて、かなり読みやすくなっているスリップがありましたから、工
夫改良の余地はあるようです。いずれにしろ、再販商品である出版物と消費税の総額表
示との相性が最悪なことははじめからわかりきっていることですから、この程度のこと
ですませられるならば、出版業界の被害はまだなんとか耐えられる範囲におさまるでしょ
う。
 ところが、業界紙によりますと、神奈川県書店組合は店頭での混乱を避けるためとの
理由で、書籍の裏表紙に本体価格ではなく、総額表示を明記するよう出版社に求めてい
くと決議したとのことです。しかしどう考えてもこの決議は、消費税導入以来の混乱と
被害を忘却しているとしか思えません。いくらなんでも、裏表紙に明記を要求するのは
新刊と重版だけとは思いますが、消費税率が変わるたびに同じことを要求するつもりな
のでしょうか。流通在庫も含めたすべての商品の表示を統一することが不可能なことは、
89年の消費税導入時の経験からも明らかです。しかも今回は、一番安上がりなシール
貼りによる表示替えは、消費者の不審と不評を招くことが明らかになりましたから、あ
えて採用する出版社は少ないでしょう。もちろん店内の商品すべてが裏表紙に総額表示
されているものばかりなら、店頭で混乱が起きないでしょうが、総額表示されていない
商品をすべて閉め出したら店は間違いなく寂れます。コンビニならそれも可能でしょう
が、それでも書店としてやっていけると考えておられるのでしょうか。
 消費税導入時に大量の書籍が絶版になってしまったことは周知の事実ですが、今回は
そのような事態に陥らないようにしたいというのが、業界全体の願いのはずです。神奈
川の組合も数年前の再販制度見直しの際には、本は長く売り続ける文化財だという業界
の主張に同調されていたに違いないのですが、今回の決議はそれと相反するといわねば
なりません。とにかく今回の総額表示関しては、このようなことを強制する行政が悪い
ということははっきりしているのですし、体力の落ちている出版業界にこれ以上の負担
を与えることは避けた方がよいことも明らかなのですから、神奈川の組合のような決議
に他の都道府県の組合が追随されないことを希望します。なお、蛇足ながらうちの店は
50年ほど前に京都の組合を脱退していますから当事者ではありません。
 いま現在うちの店では、消費税以前の本、3%時代の本、5%時代の本、自主流通本、
そして自由価格本まで扱っています。自主流通本にはちゃんと本体価格表示されている
のもありますが、定価としか記してないもの、頒価と記してあるもの、さらには何も記
してなくて当方が鉛筆書きしたのまで混在しています。自由価格本には50%引きとか
60%引きと書いた帯を巻いて表示しています。このような状態ですから、来年4月以
降すべての商品を総額表示にすることなど不可能であり、またそのような作業をするつ
もりもありませんが、お客が質問されればそれに答えることで対処できるはずです。
 それよりもやっかいなのが、インターネットの通販サイトです。現在何冊掲載してい
るのか正確な数はわかりませんが、おそらく数千点と思われるそのほぼすべてが本体表
示になっていますから、考えただけでもうんざりしますが、すべて総額表示に変更する
必要があるでしょう。店頭だと説明すればすむことでも、ネットの場合はあらかじめ可
能な限り誤解を受けないような表現にしておく必要があります。本体価格のままならい
ずれ消費税が変更になってもそのままですむのに、まことにめんどうで腹が立つ作業で
すが、現在月平均50万円ほど売れていて好調ですから、あきらめて訂正作業するしか
ないでしょう。            [2003/09/22記  (c)SISIDO,Tatuo]
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