出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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   「ブックストリート:書店」第19回 2003/07/中旬号

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 早いもので、去る5月はペヨトル工房の解散3周年でした。うちはこの3年間でペヨト
ル本を約2400冊、販売額にしておよそ400万円も売ることができました。これはうちのよ
うな極小書店ですと、出版社別の売上ランキングで5位あたりになる好成績ですが、それ
以上に大きかったのが、ペヨトル本を扱ったことによって、新刊書店業界ではほとんど競
合店がなさそうな、「消えた出版社の本」というジャンルを開拓できたことです。
 うちはわずか10坪の極小書店で、立地もさほどよくはありませんから、生き残るために
は大書店のスキマを狙った品揃えをするしかありません。そのために、ふつうの流通ルー
トには乗っていない自主刊行物の中から、うちの店に向いた出版物を選んで扱うことによ
って特色を出そうとしてきました。また、流通ルートに乗ってはいるものの、他店では見
落とされがちな、非有名出版社の旧刊本などにも極力注意を払って仕入れるようにしてい
ました。そのような狙いから考えれば、「消えた出版社の本」というのは究極のキラー・
コンテンツといえるでしょう。
 ペヨトル解散以前だと、つぶれた出版社の本というものは、突然返品不能になった上に、
古書店ではゾッキ本としてたたき売られることも多い、新本書店にとっては大きな災難だ
としか思えないものでした。その意識が180度転換して、ついには新本特価まで扱うこと
になろうとは考えてもいませんでしたが、これは98年に手を出したインターネットの利用
なくしてはありえないことだったようです。
 インターネットも最初はメールや書籍の検索にしか使ってませんでしたが、1年過ぎた
ころに、店の宣伝になればという程度の考えで、短歌や人智学や自主流通本の在庫リスト
をメインにしたお粗末なサイトをオープンしてみました。にぎやかしのために、その他い
くつかのページを作成したのですが、「最近つぶれた出版社の本」(※後に「つぶれた」
を「消えた」に変更)というページへの問い合わせが妙に多かったのはまったく予想外の
ことでした。当時は京都書院やリブロポートの売れ残り本を少々を並べただけでしたから、
ほとんど売上にはなりませんでしたが、翌00年5月にネットでペヨトル工房の解散を知っ
たときに、ここの在庫を扱えばかなり売れるだろうという予想ができる程度の経験を積む
ことができました。このあたりのことは、解散1周年に冬弓舎から刊行された「ペヨトル
興亡史」に詳しいので省略しますが、ペヨトル・ファンのサイトやメーリングリストの後
押し、ミルキィ・イソベさんによる「夜想2マイナス」の創刊、解散2周年記念のイベン
トなどのおかげもあって、たいへん順調に売れているのは最初に書いたとおりです。
 このペヨトル本の販売は8割方がネット通販です。いくら他店ではほとんど見かけない
本とは言え、地べたの店に並べただけではたいした売上にはなりませんし、通販するとい
っても経費をかけずに宣伝することは困難です。それがネットだと、ただ同然で宣伝がで
きる上に、メールで受注もできます。それに、検索サイトで「ペヨトル」を検索すると先
頭画面で三月書房がヒットするようになったり、購入してくれた人が掲示板などで勝手に
宣伝してくれたりと、ひとつうまく行くと急速に波及効果があらわれるのがネットの長所
です。このようにしてペヨトル本を扱えたおかげで、オンライン書店としての知名度が上
がり、こちらもネット通販のさまざまなノウハウを学習することができました。
 ですから、その年の秋に小沢書店が倒産したときには、ぜひとも仕入れたいと思いまし
たが、これは知人の古書店氏が新本特価ルートを紹介してくれたので、01年初頭から扱う
ことができるようになりました。このルートでは他にもリブロポートや博品社や十月社な
どの本を多数仕入れています。また、やはりネットで元京都書院が、債権者の同意を得て
在庫品の販売を開始したという情報を入手し、交渉の結果これも仕入れが可能になりまし
た。このようにしてうちの店の「最近消えた出版社の本」のページは、どんどん充実しつ
つあるわけですが、あくまでも出版社の「ご不幸」待ちなので、さらなる「出品」を期待
しているとは言い難いのが唯一の欠点です。なお、ペヨトル本と京都書院本は旧定価で、
小沢書店他は新本特価で販売してます。
                 [2003/06/21記  (c)SISIDO,Tatuo]
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