出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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    「ブックストリート:書店」第01回 2002/01/中旬号

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 三月書房は京都の寺町二条の地べたの本屋です。一九五〇年開店ですから、今
年で五二年目に入ります。わずか一〇坪の極小書店ですから売上もわずかなもの
で、世間の景気がよいときには話題にもなりませんが、不景気になるとちょっと
だけ見直されるようで、新聞や雑誌の取材を受けたりすることが多くなります。
とはいえ、売上はなんとか横ばいを維持している程度なのですが、それでも業界
全体が五年だか六年だか連続下降中ですから、ましなほうなのでしょう。もちろ
ん横ばいと言っても高い水準を保っているわけではなく、うんと低いところを横
ばいしているだけなのですが。
 今回、本誌編集長からのお誘いを引き受けた一番の理由は、業界向けに宣伝す
る機会は逃さないように心掛けていることです。うちのような本屋を維持して行
くには、お客様の支持は当然として、それ以上に、出版社の方々のご理解とご協
力が欠かせません。なにしろ仕入れが片寄っていて、ハリポタですら五冊売るの
がやっとなのに、初版数千部の本を五〇冊売ったりすることが珍しくないので、
データ万能主義の版元の方々に出荷の依頼をするときに、少しでも名前が知られ
ているほうが有利なわけです。それに、現在、この業界全体がご臨終寸前であり、
老人病院か老人クラブのような状況になっていますから、ちょっと顔を出さない
と、すぐに死んだことにされてしまいかねません。今年一年、毎月一回、ここに
書かせていただけば、少なくともまだ潰れていないことだけは告知できるでしょ
う。
 二番目の理由は、今年は間違いなく業界大混乱の年だと予想されますから、ネ
タには困らないだろうという気がしたからです。無事平安な年だと二、三回で自
慢することも底をつくだろうし、さりとて日常茶飯事のエッセイでお茶を濁す柄
でもないというわけで、持て余すに決まっているからです。というわけでごく気
楽にお引き受けしたところ、まことにグッドタイミングというかバッドタイミン
グというか、鈴木書店が破産してしまいました。うちはここから五〇年近く仕入
れ続けていて、直近でも仕入れの半分近くのシェアがありました。この鈴木書店
のネタだけでも半年くらいは持たせることができそうですが、なにしろ破産申告
がこの稿執筆のわずか数日前のことだったため、その後の状況についてはまだ日
々刻々変動中のため詳しく書くことができません。しかし、うちの店としては、
二年前の柳原書店や駸々堂書店の破綻と、それに続く日販の危機報道のころから、
少しづつ対策を講じていましたから大きな被害はなさそうです。
 対策といっても立派な計画に基づいたものではなく、過剰在庫の減量というご
く平凡なこと以外は、行き当たりばったりのものばかりでしたが、たまたま急速
に普及しつつあったインターネットの波にうまく乗ることができたために、予想
以上の成果があがりつつあります。三年ほど前にインターネットを始めたときに、
最初に取り組んだのが、従来はワープロで打ってコピー機で印刷し郵便で送付し
ていた、出版社向けの情報紙のメール版でした。郵送版は手間も費用もかかりま
すが、メール版は手間が少ない上に費用もほとんどかかりません。始めは二〇名
程度の出版関係者に送信しただけでしたが、みなさんが転送してくださったおか
げでたちまち数百人規模の読者が獲得できました。その結果知り合うことができ
た出版社の人たちから情報をもらい、受注もしていただくのは、ネット以前には
想像もできなかった快適さです。
 また、その一年後に、ほとんど期待せず始めた、ホームページによる通販が、
いまでは売上の一割近くを稼ぐようになっています。ネット通販での人気分野は、
ネット以前から通販していた人智学関係や現代短歌関係のほか、ペヨトル工房や
リブロポートなど、通常の流通ルートから消えた出版社の本が中心です。これら
の本を扱えるようになったきっかけや、仕入れルートの確保にも、ネットで入手
した情報が一番役にたちました。
 さらに、一年ほど前から、ジュンク堂の「自由価格本コーナー」のまねをして、
新本特価の販売も始めてみましたが、倒産した小沢書店の本が大量に入荷するよ
うになったころから軌道に乗り始め、現在では店の棚の一割近くを占めるように
なっています。結局、その分だけ通常在庫を減らすことに成功したわけです。こ
の新本特価は折からの出版不況のおかげで、健在出版社も再販制度の弾力的運用
という名目で、どしどし在庫を放出するようになりつつありますから、当分は仕
入れに困らないでしょう。これらのことはすべて「e-mail版三月書房販売速報
(仮題)」にて送信済みですから、お暇な方は三月書房のホームページにてバッ
クナンバーをお読みください。 [2001/12/12記  (c)SISIDO,Tatuo]
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