出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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  「ブックストリート:書店」第05回 2002/05/中旬号

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 日本図書普及は平成16年度中に図書券を廃止して、図書カードに一本化したいと発
表しましたが、これはほんとうに消費者のためになることなのでしょうか。どう考えて
もこの結果得をするのは、回収清算業務が楽になる発行会社と取次会社だけのような気
がしてなりません。特大書店のことはよくわかりませんが、われわれふつうの書店には
なんの得もなさそうです。それでも、図書券よりも図書カードのほうが、消費者にとっ
て間違いなく有益であるということでしたら協力しなくてはいけませんが、消費者にとっ
てもデザインが豊富になるということ以外には、たいした利点がないように思えます。
 図書カードが登場したのは80年代末のことでした。当時はテレホンカードの大成功
を見た各種業界がプリペイドカードの導入を急ぎ、すぐにでも現金不要の世の中になり
そうな話が飛び交っていました。出版業界でも参入希望者が多く、結局3種類のカード
が並立する状態がしばらく続きましたが、どれもまったく人気が出なかったため、従来
の図書券で利益をあげていた日本図書普及以外の2社は、短期間で撤退してしまいまし
た。残った図書カードもまったく人気がなく、店頭で見かけることもまれでしたが、最
近は少し伸びてきて、図書券と図書カードの新規発行比率は8対2になっているそうで
す。しかし未回収分を合計すると、流通残高に占めるカードの比率はまだ数パーセント
でしょう。
 書店が図書カードで支払ってもらうためには、専用の読取り機を設置しなくてはなり
ません。1店に1台は無料で貸与してもらえるので、初期費用はたいしてかかりません
が、保守費用と通信費が永続的にかかります。それよりももっとわずらわしいのが、カ
ウンターに置き場所を確保することと、電話線に接続することです。それでなくともク
レジットカードとデビットカードの読取り機があり、パソコンがあり、固定電話があり、
さらに店によってはPOSレジもありますから、カウンターの上も電話回線もすでに大
混雑です。レジが2カ所以上ある書店は、高いお金を払って2台目以降の読取り機を購
入しなくてはなりませんし、レジ係にとっては覚えなくてはいけない機器操作が増加し
て、負担が増えるばかりです。 
 これらの不便も経費も、消費者にとって図書券よりも図書カードのほうが便利で使い
勝手がよいのならがまんもできるのですが、そのような気配はまったく感じられません。
そもそもプリペイドカードというものは、少額の購入をくり返す場合に、いちいち小銭
を扱う不便から解放されるところが最大の利点です。レジで店員に渡して処理してもら
うのだったら図書券となんのかわりもなく、自動販売機での使用ができないことには利
便性はありません。現在われわれが使用していて、快適と思えるプリペイドカードは、
テレホンカードのほかは自動改札を通れる交通機関のものくらいではないでしょうか。
テレホンカードやパチンコカードのセキュリティが簡単に破られ、偽造カードの氾濫は
大きな社会問題になりました。まったく同じカード会社のシステムである図書カードな
のに、その手の犯罪のうわさを聞かないのは、逆説的にいうならば、普及率が低いこと
と使い勝手が悪いことの立派な証明になるでしょう。
 すでに長い歴史のある図書券は世間の評価も高く、金券ショップの店頭を見ても、商
品券としては百貨店のものに次ぐ地位にあるようです。書店にとっても、発行残高の増
加にともなって、近年は運用益の配分が受けられるようになり、初期には必要だった引
き換え手数料負担がなくなったばかりか、釣銭問題解決を名目とした分戻しすらもらえ
るようになりましたから、不満のないシステムといえます。ブックオフとの図書券問題
にしても、図書券の流通性、信頼性、利便性が高いからこそ発生したのであり、消費者
に広く受け入れられているひとつの証であると考えるべきでしょう。
 このように業界全体の協力によって広く普及し、消費者にも高い信用をいただいてい
る図書券を、なぜ拙速に廃止せねばならないのでしょうか。百貨店の全国共通商品券を
みても、まだ紙の券で何の不自由もないようです。図書券をさらに使いやすくするため
には、百貨店を見習って千円券を発行したらいいくらいだと思うのですが、これは時代
遅れな意見でしょうか。(註。4月末現在、三月書房には図書カードの読取り機はあり
ません)
                                      [2002/04/20記  (c)SISIDO,Tatuo]
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