出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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  「ブックストリート:書店」第04回 2002/04/中旬号

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 うちの店が新本特価の扱いを、棚一段で開始したのは一昨年末のことでしたが、現在
は十数段にまで増えました。これは店頭在庫のおよそ6%強にあたります。売れ行きは
たいへんに順調で、最近では月に二百冊位、販売価格にして二〇万円強になっています。
とくによく売れているのが、小沢書店、博品社、リブロポートなど、倒産や解散のため
に通常のルートでは仕入れられなくなった本です。これらの本は今を逃せば新本で入手
できる可能性がないうえに、旧定価の半額程度で買えるのですから、売れて当たり前と
言えないこともなく、ネット通販でも人気商品になっています。そのほか、健在な出版
社が過剰な在庫を放出された時限再販品もありますが、こちらのほうはまだ新刊市場に
在庫が残っているものや、文庫化されているものが多くて、ある程度の割安感がないと、
それほどは売れないようです。
 これはあまり大きな声では言えませんが、売れた個々の分については、粗利益が再販
本の二倍以上もあり、二割少々の粗利益に慣れている新刊屋としてはけっこうな儲けで
す。もちろん全体としては、売れ残りリスクや在庫管理費用がありますから、大儲けと
はいきません。しかし、そんなことよりも、商売としてのおもしろさが直接的に感じら
れるところが気に入っています。大部分は専門の新本特価卸から仕入れているのですが、
ちかごろは毎月の目録が届くのがちょっとした楽しみになってきました。慣れないと読
み方がよくわからないその目録から、売れそうなものをピックアップして注文し、入荷
した本に適当そうな値段をつけ、1冊売れたら次は2冊、3冊と追加を仕入れて、在庫
の充実をはかります。卸元にあと何冊残っているかがわからないので、売れそうな本を
品切になる前に多い目に抱えるのが一番大事なのですが、なかなかうまくは行きません。
こんなに売れるのだったら、もっとたくさん仕入れておけばよかったと悔やんでばかり
ですが、それでも自己責任で完結するこの仕事には、再販と委託にゆるゆると束縛され
ている、従来の新刊屋の仕事にはなかったタイプの爽快さや充実感があります。
 特価本の流通にはずっと以前から関心を持っていましたが、それはうちの店が定価で
売り続けている本が、いわゆるゾッキになっていたら困るからという防衛的な観点から
でした。なぜなら、うちの店は他店が敬遠しがちな買切の返品不能品を、比較的多く在
庫することを他店との差異化をはかる方策のひとつにしているのですが、これはゾッキ
に流さないという信用がある出版社の、値崩れしそうにない本でないと成り立たないか
らです。その当時は、ゾッキ本は古書店の縄張りだと思いこんでいましたから、うちの
店に新本特価の常設コーナーをつくる日がくるとは、まったく予想もしていませんでし
た。
 ところが数年前から、新刊業界では再販制度の弾力的運用ということがいわれるよう
になり、時限再販による特価販売の試みがいくつか実施されるようになりました。しか
しはじめのころは、取次店が企画した大書店向けの期間限定セットのようなものばかり
で、まったく魅力がありませんでした。しかし、一昨年春に、当時日本一の広さで開店
されたジュンク堂の堂島店を冷やかしに行って、大きな壁をほぼ一面使用した「自由価
格本コーナー」を見たときには圧倒されました。量と質がいままでの特価本セールとは
段違いだったこともそうですが、それよりも新刊書店が特価本コーナーを堂々と常設で
きる時代になったのだということが驚きでした。これはぜひまねをしなくてはと思った
のが、うちの店の特価本コーナーの始まりです。 
 新本特価の今後の見通しですが、現在のような新刊洪水が続くかぎり、あるいはデフ
レ状況が続くかぎりは、この分野がかなり有望であることは間違いありません。しかし、
うちの店のわずかな経験からいっても、売れ行きは新刊以上に内容の良否に左右され、
たんに安いから売れるというような簡単なものではなく、経験と情報収集力と目利きが
必要です。それに、返品のできるシステムもあるようですが、基本は買い取りですから、
資金力よりも何よりも在庫置き場が必要になります。そのようなわけで、この分野はど
この新刊書店にでも可能とは思えず、その分、われわれ独立系の書店にもビジネスチャ
ンスがあるのではと考えています。[2002/03/20記  (c)SISIDO,Tatuo]
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