出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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   「ブックストリート:書店」第16回 2003/04/中旬号

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 3月中旬現在、消費税の総額表示義務付け法案の成立はどうやら確実のようです。あ
との望みは出版業界の4団体が連名で2月末に財務大臣に出した要望書にもあるように、
書籍等の出版物は対象外とされるかどうかですが、これもあまり楽観はできないでしょ
う。この要望書によると、消費税導入時に出版社が要した経費は1社平均3623万に
もなったとあります。また、この3月に筑摩書房営業部が発表した試算によれば、同社
が管理する3500アイテム、400万冊の改装に要する経費は数億円にもなるとのこ
とです。
 この総額表示問題のさらにやっかいなところは、出版社が莫大な費用をかけて改装す
れば、それですべてが解決するというような簡単なことではないことです。まだ細目は
不明のようですが、総額しか表示できないのか、総額と本体価格とを併記してもよいの
かがまず大きな問題です。もしも総額のみしか表示できなくなれば、将来の税額変更に
対応することは完全に不可能になります。そしてさらにたいへんなのが、書店在庫品の
表示変更です。総額表示が義務付けられるのは、出版社や取次ではなくて、消費者に直
接販売する小売店ですから、おそらく大部分の書店は出版社に対して商品の入れ替えを
要求することになるでしょう。それに対して出版社や取次はそれを極力避けて、各書店
でのシール貼りを要請することになるでしょうが、その手間や経費もさることながら、
シールを貼られた本は汚らしいうえに、私製のシールは信頼性に欠けますから、大部分
の書店が拒否することになるでしょう。
 その結果予想されることは、消費税導入時よりもさらに大量の書籍が絶版や断裁になっ
てしまうことですが、当時よりも出版業界の体力は格段に落ちていますから、当然のこ
とながら出版社の倒産や廃業が一挙に増加することが確実です。もちろん書店の売上も
旧刊書の販売比率の高い店ほど落ちることになるでしょう。このような最悪の事態を避
けるために考えられる手段はそれほど多くはありません。ひとつはもちろん政府に除外
を要請することですが、それが認められない場合は、どの程度の強制力や罰則があるの
かがまだわかりませんが、業界全体で総額表示を無視し、従来通りの本体表示を続ける
ことです。その際はおそらくコンビニ業界や駅売店業界が総額表示を要求してくるでしょ
うが、それらで扱っている雑誌類は現在でも内税表示なのであまり問題はないでしょう。
 もっと簡単なのは再販制を一挙に廃止してしまうことです。そうすれば出版社は適当
な希望小売価格を表示するだけですみますし、過去の在庫に関しても書店の自由裁量に
任せることが可能です。これは業界全部がまとまる必要はなくて単独の出版社でも可能
ですが、いくら再販制にやや行き詰まりが見られるとはいえ、副作用がたいへんに大き
いこのような手段をとる出版社がそうあるとは思えません。しかし、改装や返品の大波
をかぶることと比較するならば、倒産よりはまだましですから最後の手段としてはあり
うるでしょう。
 これよりも少しおだやかなのが、値幅再販あるいは時限再販の導入です。数パーセン
トの値幅再販を採用すれば、わずかな違いに目くじらをたててシール貼りをせずとも、
旧定価を税込み定価と見なして販売することが可能ですし、ついでにポイント・カード
の問題も解決します。また時限再販を採用すれば、以前の旧定価表示が数種類混在して
も、それらは再販期限切れということでシール貼りをする必要がありません。時限再販
をすでに導入済みのレコード業界を見ても、さほどひどい値崩れは起こしていなくて、
売れ残り品の1割引きセールがせいぜいのようですから、これならさほど抵抗なく受け
入れられるかもしれません。
 最後に、やはり現行の再販制は何としても死守したいが、シール貼りや改装も絶対に
いやという場合は、また最初に戻って政府に要望ということになります。しかし、数年
前の再販制見直しの時に大きな政治力を発揮して共闘してくれた新聞業界は、なにしろ
商品寿命わずか一日の商品を売っている関係で、もともと本体表示などしていませんか
ら、今回はまったくあてにはできません。そこで、もっとも強力な最終手段として提案
したいのが、書店業界のゼネラル・ストライキです。今年後半の休配日の土曜を選んで、
全国のすべての書店が一斉に休業すれば、これは圧倒的な宣伝効果があるはずです。夏
だったらシャッターにゼネスト決行中と貼って、店の前でのんびりビールなど飲みなが
らビラ配りでもすれば、ちょっと楽しいのではないでしょうか。

                 [2003/03/20記  (c)SISIDO,Tatuo]
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