出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24

   「ブックストリート:書店」第18回 2003/06/中旬号

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 今年も「三月書房販売年報(仮題)」を発行しました。これは1992年創刊の「三月
書房販売情報(仮題)」を改題して、昨年から年1回の発行にしたもので、通巻すると6
0号目になります。創刊当時は年に8回ほど発行していましたが、数年前に始めたeメー
ル版の「三月書房販売速報(仮題)」がすこぶる順調なため、紙版を少々リストラしたわ
けです。紙版はメール版に比べて、格段に手間や経費がかかりますが、まとまりのよさと
か読みやすさは大きな長所です。それに、信じられないことですが、いまだにインターネ
ットにつながっていない出版関係者もおられるようですから、まだしばらくは出し続ける
必要があるみたいです。
 今号は全4頁で、主な記事は「2002年の概況」「返品率について」「出版社別総合
売上冊数TOP50」「新本特価について」「たいへんよく売れた本TOP20」「20
02年の《吉本隆明》本」「同《三木成夫》本」「同現代短歌の本」「同ネット通販」な
どです。頁数がやや不足気味で、人智学関係など載せられなかった記事も少なくありませ
んでしたが、これを読んでいただけば、うちの店の現状をある程度は理解していただける
はずです。今号は現在配布中ですが、前号はおよそ100部を出版社に直接配布しました。
「無断複写&配布大歓迎」と明記してありますから、出版社の営業の人などからコピーを
もらって読んでくださっている書店関係者なども少なからずおられるようです。
 こういうものを作成して配布している目的は、出版社の人たちに、うちの店のことを知
っていただくためです。日本には出版社が数千社と書店が2万店ほどありますが、すべて
の出版社と書店とが個別につきあうことは不可能です。言うまでもなくそのために取次が
あるわけですが、いろんな特別扱いを受けることが可能な大書店以外は、いわゆるパター
ン配本程度のサービスしか受けられません。しかし、膨大な出版点数とその返品率を考慮
するならば、これは無理もないことです。したがって、うちのような極小書店が、大書店
のスキマを探して特色を出そうとするならば、パターン配本を断って、必要と思われる本
だけを仕入れるようにするしかありません。
 それでも、1970年代までは出版点数がさほど多くはなく、鈴木書店も健在でしたか
ら、たいして苦労はありませんでした。それが1980年代に入ると、出版点数の増加や
書店業界の総坪数の増加によって、業界の構造が急速に変化してしまい、量的な拡大が困
難であった鈴木書店の仕入れ能力は、相対的に見て低下する一方でした。その結果、日販
扱いの出版社はもちろん、鈴木書店扱いの出版社ではあっても、うちが自力で仕入れ交渉
しなくてはならない機会が増え始めました。その際はうちの店の方針や特色を説明すると
ころから話を始めなくてはならず、そのつど販売データを揃えるのもめんどうでした。そ
こで、最新の状況がわかるような印刷物を、常時準備しておくと便利だろうというのが
「販売情報」を発行し始めた理由です。
 発行してみると予想以上に効果があり、いままではぜんぜん付き合いのなかった出版社
の方々が配本の便宜を図ってくださったり、うちの店向きの新刊情報を送ってくださった
りするようになりました。このささやかな情報紙を発行し続けることによって、はっきり
とわかったことは、情報はあくまでもギブ・アンド・テイクで交換するものであり、それ
も先にこちらが発信しないと、相手から有用な情報をいただけないということです。この
経験は現在のeメール版の「販売速報」にもたいへんに役に立っています。
 それと予期せぬ効果としては、うちの店の「特色」をとにかく紙面に出す必要から、さ
ほどでもないことを、ややおおげさに書き続けていると、不思議なことに現実の方が後か
ら追いついて、いつの間にやら本当にそれらしい形になって行くことです。この「販売情
報」を発行していなかったら、例えば短歌の本の棚も人智学の本の棚もここまで伸びなか
ったに違いありません。
※「販売情報」最新号ご希望の出版社の方は、80円切手を同封して三月書房
 (〒604−0916京都 市中京区寺町二条上)までお申し込みください。
 
                          [2003/05/21記  (c)SISIDO,Tatuo]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
        ←第17回へ              →第19回へ

     ▲三月書房homeへ