出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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   「ブックストリート:書店」第21回 2003/09/中旬号

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 新刊書業界の余命はあと何年くらいでしょうか?
 いかに楽天的な業界人でも、紙の印刷物が現在のように大量に消費される状況が、こ
の先50年も100年も続くとは考えてはおられないでしょう。紙の本に取って代わる
のはいわゆる電子コンテンツですが、現在の電子書籍の専用端末を見ている限りでは、
まだ紙の本の敵ではありません。しかし技術は急速に進歩していますから、いずれ紙の
本が不要になるような端末があらわれることが確実です。たとえば、広げるとA4判く
らいで、読みやすさはオールカラーの紙印刷よりもすぐれていて、何万冊分ものメモリ
ーが可能で、しかも読まない時はハンカチのようにくしゃくしゃに丸めてポケットに押
し込んでおける、というような読書用端末が安く買えるようになれば、紙の本は不要で
しょう。
 さるメルマガに載った、インプレスの塚本社長のインタビューによりますと、専用端
末の性能が紙の性能を抜くのは、10年から15年くらい先ではないかと予想されてい
るようです。また、本誌連載中の歌田秋宏さんのコラムによれば、中国では1億2千万
人の小中学生の教科書を電子化するプロジェクトが年末からはじまるとのこと。中国は
膨大な人口を抱えて慢性的に紙不足の国ですから、少々性能が悪くとも電子端末は予想
以上の早さで普及するかもしれません。そうなれば世界中のメーカーが開発競争するこ
とになって、携帯電話のように性能が急速に進歩し、しかも価格はただ同然となる可能
性があります。
 このように考えると、紙の本が無くならないまでも、電子書籍にある程度のシェアを
奪われる日が来るのは、そう遠くないかもしれません。10年前には、インターネット
のことを知っているのはごく少数の人たちだけでしたし、その人たちにしたところで、
わずか10年で、ブロードバンドの常時接続がごくふつうになるとは予想していなかっ
たにちがいありません。同様にして、10年先のIT技術が、われわれの予想をはるか
に超越した変化を出版業界にもたらす可能性も十分にあります。
 もし仮に、紙の本がごく一部の骨董的出版物を除いて、すべてがオンラインの電子書
籍に移行したとすれば、出版社の一部はコンテンツ提供業者として生き延びることが可
能としても、取次店と新刊書店には存在価値がまったくなくなってしまいます。問題な
のは、紙の本が無くなるということが、遠い将来の夢物語ではなく、何年か先には確実
に実現するという展望が明らかになった時に、出版業界はどうすれば上手にソフトラン
ディングできるかということです。不治の病に冒されていることがわかった人は、新た
な生命保険の契約を拒否されます。近い将来に、確実に消滅することがわかった業界に、
いったいだれがお金を貸してくれるでしょうか。金貸しの立場に立って考えれば、取次
や書店からは超特急で回収にかかるのが正解ということになるでしょう。
 ここ6年だったか7年だったか、わが出版業界は前年割れを続けています。それをわ
が業界では世間一般の不景気せいにしているようで、景気さえよくなれば、ふたたび出
版物が売れるようになるとの暗黙の了解があるようですが、景気が戻ったときには、す
でに紙の本の終焉が見えているかもしれません。ちかごろ、大取次の流通改善に取り組
む意欲は見上げたもので、莫大な設備投資をされているようですが、減価償却は何年に
設定されているのでしょうか。続々オープンする一千坪級の書店の賃貸契約は何年なの
でしょうか。そして初期投資の回収には何年を見込んでおられるのでしょうか。まだ、
出版業界にいささかの未来があると、取次も書店もそして銀行も考えているからこそ、
大きな投資が可能なわけです。しかし、いつの日にか出版業界に未来がなく、余命はあ
と5年か10年しかないということが明らかになることでしょう。
 そうなれば、もはや再販制の議論など意味はなくなり、消費税の内税表示もどうでも
よくなり、流通改善にコストをかけることなど確実に無駄ということになるでしょう。
そういう状況下で、毎年確実に売上規模が減少して行くわけですから、よほどうまくや
らないとソフトライディングは不可能で、あっという間に大崩壊してしまう可能性が大
きいような気がします。
 現在、三月書房は開店53年目、筆者は54歳です。この商売もあと10年
持てば、個人的には十分ですから、新刊書店業界の最後を見届けることができ
れば、むしろすっきりした気分であの世へ行けるかもしれません。
                  [2003/08/20記  (c)SISIDO,Tatuo]
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