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先日リム出版新社から刊行された「新聞社の欺瞞商法」を読むと、新聞業界の不明朗
な販売慣習にはあきれてしまいます。同書によれば、新聞業界の公称発行部数には2割
程度の水増しがあり、その架空読者分はすべて「押し紙」として新聞販売店が買い取ら
されているが、販売店も新聞社の黙認のもとで、水増し分の折り込み広告料金を詐取し
ている。この架空取引を継続するには経理面での不正な処理が避けられず、販売店が二
重帳簿を作成したり、新聞社が裏金をこしらえたりしている。そして、販売店がこの無
法な「押し紙」を拒否できないのは、新聞社に少しでも逆らうと、一方的に取引を打ち
切られてしまう、圧倒的に不利な契約を結ばされているからとのことです。これらのこ
とはいままでにも少しは週刊誌等に取り上げられたことがありますが、この本のように
すべて実名をあげて、具体的な資料を公開したものは初めてでしょう。
詳しいことは同書をお読みいただくとして、これらのことは出版業界にとっても、一
般読者にとっても他人事ではありません。うちの店が参加している地元の商店街では、
去る9月に宣伝広報紙を制作して、近隣地域の複数の販売店に1万5千部部の折り込み
を依頼しましたが、推定3千部分の折り込み料金の過払いはともかくとして、その3千
部を配達せずに捨てられたと思うと、編集担当者としてはたいへんに腹が立ちます。全
国では一日あたり推定1千万部近くもの新聞とそれに伴う折り込み広告が、配達される
ことなく故紙回収業者に払い下げられているらしいのですが、これはまことに犯罪的な
資源の浪費と言わねばなりません。今後すべての新聞はこの問題の検証なしに、環境問
題についてのエラそうな記事を書くのはやめていただきたいものです。
しかし、もっと深刻な問題は新聞社経営の汚点である、「押し紙」や折り込み広告水
増しの問題、あるいは二重帳簿とか裏金の問題、そして再販商品であるにもかかわらず
頻発する過剰景品や無代紙による拡販の問題や、一部の悪質な拡販員による詐欺や脅迫
まがいの購読契約の問題等については、それらの詳細を関係当局に把握されているにも
かかわらず、見逃してもらっているらしいということです。ようするに、弱みを権力に
握られていて、それを「マスコミ対策」に利用される可能性がある新聞社が、健全なジャ
ーナリズム活動などできるわけがないだろうということです。とはいえ、官と癒着した
「記者クラブ」の制度によって、雑誌記者やフリーランスの記者を排除して、お役所の
発表記事を垂れ流している新聞社に、そもそもジャーナリズム精神などを期待するのが
間違いなのかもしれませんが。
出版業界と新聞業界とは同じ再販商品ということもあって、公正取引委員会による数
年前の再販制見直しの際には共闘関係にありました。もっとも共闘とはいうものの、新
聞社が血相変えて異論を弾圧しつつ、その政治力を駆使して爆走するのに、出版業界は
ついて行くのがやっとのようにしか見えませんでしたが。それにしても、長く売り続け
る必要がある書籍と違って、商品寿命が1日しかない新聞を売るのになぜ再販制が必要
なのかぜんぜん理解できませんでした。しかし、この本によりますと、新聞社が本当に
恐れているのは、宅配制度の崩壊でも購読料のばらつきでもなく、販売店との取引関係
が通常の売買契約に変わることだそうです。そうなれば、正常な自由競争になって宅配
便業者や郵政公社の参入も予想され、現在のような架空部数をよりどころにした経営は
不可能になります。実売部数が明らかになれば過去にさかのぼっての賠償問題も発生す
るでしょうし、水増し率が高かった新聞社は倒産しかねません。
このあたりの状況は、再販制がなくなれば数千億円といわれる書店業界の隠れ不良債
権が表面化して、出版業界全体が崩壊するのではないかという議論に似てるような気が
しないでもありません。しかし、新聞業界に比べれば、わが出版業界の取引形態ははる
かに正常なようですから、近代化の遅れた新聞業界の政治力などをあてにせず、まとも
な本にのみは再販制を残せるように努力すべきでしょう。筆者は新聞と同様に、雑誌や
読み捨て本には再販制は不要であろうと考えています。
[2003/10/21記 (c)SISIDO,Tatuo]
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