出版ニュース連載コラム(全24回)2002年1月〜2003年12月 

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   「ブックストリート:書店」第13回 2003/01/中旬号

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 昨年の12月10日の朝刊に、自民党の税制調査会による来年度の増税計画のあらま
しが報道されていました。大きな見出しは外形課税とか酒税やたばこ税の関係ですが、
ごく小さく消費税関係も載っています。これが何ともイヤなことに「内税」表示の一本
化という方針です。「内税」は税率や税額を隠して痛税感をやわらげる愚民政策の一種
ですが、ビールやたばこやガソリンなど税率の高い商品の例を考えると、残念ながらか
なりの効果があるらしいこともまた間違いないようです。
 問題なのは、わが業界の商品が再販制とのからみで、「内税」表記と極めて相性がよ
くないことです。1989年の消費税導入時に、出版業界は「内税」表示か「外税」表
示かで大いにもめましたが、業界上層部は現場からの声を無視して「内税」表示を選ん
でしまいました。その結果、出版社はカバー交換やシール張りで多額の経費を負担し、
それを避けるために大量の書籍を絶版にし、さらには旧価格表示を嫌う書店からの大量
の返品も発生するという、まさに踏んだり蹴ったりの大損害を受けました。このとき、
シール貼りのついでに便乗値上げを計った出版社も少なくなく、消費者の反発で倒産し
てしまった有名出版社もあったぐらいです。この「内税」表示の大失敗は、5%に増税
されたときに、本体価格による「外税」表示に変更することによってやっと修正された
のですが、今度また「内税」表示を強制されることになったら、当時とは比べものにな
らないくらい出版業界の体力が落ちていますから、壊滅的な打撃を受けることになるで
しょう。 
 消費税率はそう遠くない時期に少しづつ引き上げられることがほぼ確実で、いずれは
10%とか20%になることも避けられないであろうと予想されています。売り場の価
格表示や値札の付け替えだけで対応できる他の大部分の商品と違って、再販出版物の場
合には発行者による定価表示が義務づけられています。本体価格による「外税」表示な
らば、税率が変わっても簡単に対応できますが、「内税」表示の場合は税率変更のたび
に莫大な費用がかかります。現在流通している出版物には、消費税以前の定価表示のも
のと、税率3%時代の内税表示のものと、現在の本体価格表示のものとが混在していま
す。たとえ税率が変わらずとも、「内税」表示が強制されればこれらの本の定価表示は
どうするのでしょうか。またまたシール張りをすることになるのでしょうか。新たに出
版されるものについては税込み定価が印刷されることになるのでしょうが、これだと本
体価格が不明になってしまうために、それ以降に予想される税率変更にはまったく対応
できなくなります。
 出版業界がとるべき対策としては、出版物は「外税」表示を続けたいという断固とし
た態度を表明することがまず必要でしょう。そして、以前から一部で言われているよう
に、食料品などとともに出版物の非課税化、あるいは低税率での長期固定化を要求する
ことも無駄ではないはずです。しかし、消費税導入時のように、その手の政治的活動に
期待しすぎると、それらが実現しなかった場合の対策が後手に回ってしまいますから、
「内税」表示の強制が避けられない事態になったときのことも十分に研究しておくこと
が必要です。
 書店の中には、雑誌とごく直近の新刊書籍だけの店も少なくなく、それらの店は「内
税」でもかまわないというかもしれませんが、大型書店はもちろんのこと中小書店でも、
客注まで含めると、5年以上前や10年以上前の出版物を扱うこともごくふつうのこと
です。消費税導入時に出版業界共通の財産ともいうべき旧刊書が大量に破棄されてしま
い、書店業界も販売機会の消失によって莫大な損害を受けましたが、二度とそんなこと
だけはないようにしたいものです。
 これは極論かもしれませんが、またまた「内税」表記を受け入れることになって、シ
ール貼りや絶版を繰り返すくらいなら、いっそのこと再販制を返上してしまったほうが
まだましなのではないでしょうか。再販制がなければ出版社は税込みの希望小売価格を
表示しておくだけで済みます。販売価格決定権は出版社から書店に移りますから、税率
が変更になればそのまま売ってもよし、自家製のシールを貼って好きなだけ値上げして
もよしということになってごく簡単です。再販制廃止となればそれはそれでいろいろた
いへんなことになることもまた確実ですが、現在の再販制が行き詰まりつつあることも
また事実です。再販制にこだわるあまり、税率が変わる度にシール貼りと絶版を繰り返
すという愚かなまねだけは、どんなことがあっても避けたいものです。
               [2002/12/11記  (c)SISIDO,Tatuo]
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