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オーリーオーン(=Wrivwn)

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 「山に住むの男」を意味する。供犠として、女狩人のアルテミスに殺される「狩猟の王」のギリシア版。いくつかの古代ギリシアの物語は、オーリーオーンが海で泳いでいるとき、余り遠くに行って姿がはっきり見えなくなったため、女神は誤って彼を殺したのだと言っている。彼女は漂っているもの目がけて矢を射ったが、それがオーリーオーンの頭であった。

 他の物語では、彼はアポッローンの放ったサソリに刺されて死ぬが、アルテミスは、彼の霊魂像を星の間に置いたと言う。天空においてさえ、オーリーオーンは永久にサソリに追いかけられている。グレイヴズによれば、この星座の配置は、ヘル〔ホルス〕を殺すために神セトが送ったサソリに関連があるという[1]。いずれにしても、オーリーオーンは、神となった生贄の犠牲者の1人であった。


[1]Graves, G. M. 1, 152-53.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 ボイオーティアの巨人で美男子の狩人。父はヒュリニウスともポセイドーン(母はエウリュアレー)、または大地女神ガイアの子ともいわれる。彼はポセイドーンより水上を(あるいは水中を)歩むカを与えられた。シーデーを妻としたが、彼女はへ−ラーと美を競ったためタルタロスに投ぜられた。

 のちキオス島に赴き、オイノピオーンの娘メロぺ−に求婚したが、王はまず島の野獣退治を要求、これをただちに果したオーリーオーンはふたたびメロぺ−を求めたので、オイノピオーンは彼を酔わせ、眠っているあいだに彼を盲目とし、海辺に棄てた。

 しかし彼はへ−バイストスの鍛冶場に行って、ケーダリオーンなる男の子を奪って肩に乗せ、太陽の登る方向に導くように命じ、そこに到着して、太陽の光によって視力を回復し、復讐のために大急ぎでオイノビオーンのところにむかった。しかしへーパイストスがオイノピオーンのために地下の部屋を構築し、そこに過れさせたため、オーリーオーンは彼に手を下すことができなかった。

 その後、曙の女神エーオースオーリーオーンに恋して、彼をさらってデーロスにつれて来た。彼は、一部の人々はアルテミスに円盤投の競技を挑んだために殺されたといい、また一部の人々はヒュペルポレイオス人の国から来ていた乙女オービスOpisを暴力で犯したために女神に射られた、あるいは、これはもっとも通説であるが、アルテミス自身を犯さんとして、女神の送ったさそり(蠍)に刺されて死んだ(このさそりは彼がいかなる動物をも殺すことができると誇ったために、大地ガイアが送ったものであるともいう)。

 オーリーオーンはホメーロス中ですでに星座のオーリーオーンと同一視されており、もっとも古い星物語の一つである。さそりは功によって星座となり、オーリーオーンがつねにさそりか ら遁れつつあるのはこのためであるし、また彼がつねにプレイアデス(あるいはプレーイオネー)を迫っているのも、同じく星座の位置から出た物語であろう〔画像は、「オリオン大星雲」〕。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)

 オーリーオーンに関する話は、おたがいに関係のない三つ四つの神話が、いっしょに組みあわされているのである。その最初がオイノピオーンの話だが、この叙述には混乱がある。この話の主意は、聖王の任期がおわって、あたらしく王位につく後継者が祭式にさだめられた戦闘をおえ、さだめられた祝宴をひらいて女王と結婚したそのときになっても、まだ聖王がその王位を譲り渡そうとしないということである。しかし、このあたらしい王というのがじつは中間王にすぎないから、たった一日だけ統治したあと、当然のこととしてマイナスたちに食い殺されるのである。そこで、それまで墓のなかでをよそおっていた先王が、ふたたび女王と結婚して、統治をつづけることになるのである。

 この話のなかに「キュクロープスの槌」などといった場ちがいな言葉が挿入されているが、これはオーリーオーンが盲目になったことを説明しているのである。これはあきらかに、オデュッセウスが酒に酔いつぶれたキュクロープスの眼を焼ききったという神話の絵と、太陽神ティーターンが毎夜その敵によって盲目にされるが、彼にしたがっている「女神あけぼの」によってふたたび視力を回復するというへレーネスの寓話が結びあわされているのである。実際オーリーオーン(「男」)とヒュペリーオーン(「天の男」)は、ここでは同一視されている。オーリーオーンが自分は野獣をことごとく退治することができると豪語したというのは、例の祭式にさだめられた戦闘のことを言っていると同時に、朝日が昇るとともにすべての野獣たちがそれぞれの洞窟に身をかくしてしまうという意味の寓話でもある (『詩篇』第一〇四篇・二二行)。

 プル一夕ルコスの記述によると、真夏の盛りのころに、セトの神が蠍を放ってイーシスとオシーリスの息子である幼児ヘル〔ホルス〕を殺すことになっているが、この話は、なぜオーリーオーンがさそりにかまれて死に、またなぜアルテミスがアスクレービオスにその手あてをたのんだのかという事情の説明になっている(プルータルコス『イーシスとオシーリスについて』一九)。ヘル〔ホルス〕は死ぬが、太陽神ラーが彼をよみがえらせ、ヘル〔ホルス〕はあとで父オシーリスのにたいする復讐をする。だとすると、もとの神話では、オーリーオーンもまた生きかえることになっていたのであろう。オーリーオーンはまた、部分的にはあのバビロニアのヘーラクレースともいうべきギルガメシュともみられる。『ギルガメシュ叙事詩』のなかの第十の香坂のなかで、ギルガメシュを蠍人たちが襲撃するからである。この神話は、たぶん太陽が天蠍宮に昇るときに聖王が致命傷を負うことを指しているのであろう。では、はたしていつ彼がその傷を負うのか、その正確な時期は、神話自身の古さによってちがってくる。たとえば、十二宮の制度がはじめてできたときには、天蠍宮はたぶん八の表象であったろうが、古典期にはいると歳差運動の結果、それはさきへすすんで十になっているからである。

 オーリーオーンのにまつわる話のもうひとつの変形が、 パレスティナのラス・シャムラ出土の書板のひとつに語られている。いくさの女神アナトあるいはアナタが、アクハトという名前の美男の狩人に恋をする。彼が女神をじらして、その弓をわたさないので、女神は兇暴なヤトパンにたのんで、それを彼の手から盗みださせようとする。ヤトパンが不手際に もアクハトを殺したばかりか、弓まで海中におとしてしまった ので、彼女は悲嘆にくれる。この神話の天文学的な意味はなに かというと、ギリシア人たちが「猟犬座」とよんでいた星座の 一部であるオーリーオーン座と弓座が、毎年春になるとまる二 カのあいだ南方の地平線下に没してしまうということであろ う。ギリシアでは、この話にすこし変更が加えられて、アルテ ミスの祭をつかさどる狂乱の巫女たちが — オービスはアルテミス自身の異名である — オルテュギアの島をおとずれる好色な男を寄ってたかって殺したという話にかわっているようであ る。またエジプトでは、オーリーオーン星座がもどってくるこ ろに夏の暑さがはじまるところから、それはあやまってホーロ スの敵であるセトと同一視されるようになり、彼の頭上にあかるく光る二つの星は、彼のろばの二つの耳だということになっ た。

 オーリーオーンの出生にかんする話は、おそらくビレーモーンとバウキスの話(オウィディウス 『変身物語』第八書・六七〇−七二四)にもとづいていて、滑稽評以上のもの であろう。彼の昔の名前であるウーリーオーンの最初の音節が、ホメーロスの用いているoros「山」の変形ourosから出ているのではなく、ourein「放尿する」から派生したよ うに説明するためにつくられたものである。しかし、雄牛の皮に放尿するという古くからアフリカで用いられていた雨乞のためのまじないが、ギリシア人たちのあいだにもつたわっていたのかもしれない。またオーリーオーンが水の神ポセイドーンの息子だというのは、あきらかに雨を降らす彼の力のことにふれているわけである。

 プレイアデスという名前は語根プレイplei「帆走する」から出たもので、帆走にふさわしい天候が近づく季節に、これらの星が天心に昇ってくることを示唆している。し かしヒュアデスが子豚の意味であるところからみると、ピンダ ロスが用いている「ハトの群」という意味のベレイアデス Peleiadesが、おそらくもとの語形なのであろう。この星座の第七番目の星が、前第二千年紀のおわりごろに見えなくなって しまったらしい。というのは、ダルダノス家の破滅を欺き悲しんでエーレクトラーが姿をかくしたとヒュギーヌス(『神話』一九二)が記しているからである。オーリー オーンが、雄牛座のなかにあらわれるプレイアデスをむなしく追いまわしているというのは、オーリーオーン座がふたたび姿をあらわすまえに、プレイアデスが地平線から昇ってくることをいう。(グレイヴズ、p.224-225)